筋膜とその意外な役割:健康と姿勢に欠かせない秘密
筋膜(Fascia)とは?
筋膜(Fascia)とは、筋肉や骨、内臓、血管、神経などの構造を包み込み、支える結合組織の一種です。
ちなみにオステオパシーの創始者A.T.スティルはこんな言葉を残しています。
「病気の原因を探す時や、助言を求める時、あらゆる病気の治療を始めるとき、基本になる場所が筋膜である」A.T.スティル
筋膜は透明で薄い膜のような形状をしており、主にコラーゲンとエラスチンというタンパク質ので構成されています。
コラーゲンは筋膜の強度を保つ役割を果たし、エラスチンは筋膜に柔軟性や弾力性を与える重要な成分です。
この2つの要素が相互に作用することで、筋膜は体全体の構造を維持しながら、適切な可動性と強さを提供しています。
外傷や運動不足、何らかの代謝不良によってコラーゲン繊維、エラスチン繊維は高密度化し硬く(ゲル化)なります。
いわゆる筋膜リリースやマニュピレーションなどのアプローチの対象はこのような高密度化した状態の筋膜になります。
この組織は全身に張り巡らされており、単に筋肉という領域を超えた体の各部位をつなげ、統合する重要な役割を果たしています。
筋膜はかつて単なる「筋肉の包み」としての役割だけが考えられていましたが、近年の研究により、その機能や重要性が次々と明らかになっています。
筋膜は体全体の組織を統合し、形を維持する役割だけでなく、動きや感覚、免疫系においても大きな影響を及ぼすことがわかっています。
例えば、体をひねったり伸ばしたりする際に、筋膜がどのように作用しているかを知ることで、その役割の複雑さが理解できます。
【筋膜の構造】
浅筋膜:皮膚と深筋膜の間に存在、全身を包んでいる
深筋膜:筋肉や骨などの体の構造物を包んでいる。もしくはその間に入り込んでいる。
漿膜下筋膜:内臓を包んでおり、臓器を適切な位置に保つ。
【筋膜の役割】
・包み込み(区分け)
・保護(安定作用)
・姿勢
・通路
の大まかに4つの役割があります。
以下に詳しく見ていきます。
筋膜の役割
筋膜には以下のような多くの役割があります:
①体全体の構造をサポートする
筋膜は筋肉や骨などを包み込みながら、それらを一体化し、体全体の構造を維持します。
このため、筋膜が硬直したりダメージを受けたりすると、
体全体のバランスや姿勢、また慢性痛に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、首すじの筋膜の硬直が原因で、腰周りまで張力が伝わり、腰痛につながる場合があります。
②動きの滑らかさを助ける
筋膜は筋肉同士や筋肉と骨の間で摩擦を減らし、動きをスムーズにする潤滑剤のような役割を果たしています。
これにより、私たちは無理なく、効率的に体を動かすことができます。
③力の伝達
筋膜は、筋肉が生み出す力を効率的に伝達する役割も持っています。
筋肉が収縮すると、その力は筋膜を通じて別の部位に伝わり、複雑で協調的な動作を可能にします。
このため、筋膜は体全体の張力伝達ネットワークとみなすことができます。
④感覚機能のサポート
筋膜には多くの感覚受容器が存在し、痛みや圧力、温度などを感知する固有受容器としての役割もあります。
このため、筋膜が健康であることは、体が外部環境に適応しやすくなるだけでなく、自分の体の状態を把握する上でも重要です。
ちなみに、適度な温度を保つ事は、筋膜の柔軟性につながります。
だからお風呂の湯につかるだけでも筋膜の柔軟性は改善します。
⑤免疫機能への関与
筋膜はリンパ液の流れを助けるため、免疫系にも影響を与えます。
筋膜はリンパ管を支持して、それらの通行をスムーズにする役割があります。
リンパ液の循環がスムーズになることで、体内の老廃物が効果的に排出され、健康を保つサポートをしています。
⑥柔軟性と可動性の維持
筋膜が硬くなると、体全体の柔軟性や可動性が低下することがあります。
逆に、筋膜を柔軟に保つことで、怪我の予防や日常の動作を快適に行うことが可能になります。
筋膜が健康に与える影響
筋膜は、姿勢や動作のパフォーマンスだけでなく、体の不調とも深く関係しています。
筋膜が緊張やストレスを受けると、硬直して血流やリンパ液の流れが悪くなり、肩こりや腰痛、筋肉の張りなどを引き起こす可能性があります。
逆に、筋膜を適切にケアすることで、体全体の調子を整え、不快な症状を軽減することができます。
筋膜ケアの重要性
よく「筋膜リリース」という言葉が一般的になり、そのイメージが一人歩きをした結果、一部の医療従事者から、
「筋膜なんて手術しないと剥がせないよ」
などと、ちょっと意地悪なことを言う人がいますが筋膜リリースの目的は筋膜を筋肉から物理的に剥がすことではありません。
「筋膜リリース」も「筋膜剥がし」も「筋膜マニュピレーション」も筋膜の活性化、正常化を目的としたまっとうな施術てす。
それなりに歴史があります。
確かに一部紛らわしい名称のものはありますが…。
頭蓋仙骨療法やオステオパシーの施術プロセスの中で筋膜の動きの活性化、硬直した部分の解放(リリース)を目的とした施術があります。
※実際には、筋膜にアプローチすることで、全身の調和を取り戻すことが本来の目的になります。
主に軟部組織テクニックである「誇張法」や「カウンターストレイン」「内臓マニュピレーション」「靭帯性関節ストレイン」「隔膜リリース」がそれに当たります。
直接法のように少し刺激が強いものもあれば、間接法のように穏やかなものもあります。
また、それ以外でも筋膜のケアには、持続的な伸長刺激を伴うストレッチやマッサージ、適度な運動が効果的です。
また、筋膜は水分を多く含む性質があるため、適度な水分補給も健康維持に重要です。
筋膜が正常に機能することで、私たちは快適な日常生活を送ることができ、さらにはパフォーマンスの向上にもつながります。
そのため、日頃から筋膜を意識したケアを行うことは、健康維持において欠かせません。
自律神経の活動を支える上での筋膜の重要性
筋膜のケアは、自律神経の健康を維持する上でも大切です。
筋膜は筋肉や内臓を包み込むネットワークのような組織であり、体全体の張力や情報交換の役割を果たしています。
筋膜が硬くなったり緊張したりすると、筋膜内の神経受容器が刺激され、それが脳幹や交感神経節に繋がり、自律神経が乱れることがあります。
この結果、体がリラックスできず、ストレス反応が強まることにつながります。
逆に筋膜を柔らかく保つことで、血流やリンパ液の流れが促進され、体全体のバランスが整います。
これにより、副交感神経が活性化され、リラックスした状態を維持しやすくなります。
少し重複しますが、適切な評価に基づいた施術を受けることや、適度な持続伸張を伴うストレッチ、
適度な運動を取り入れることで、筋膜の柔軟性を高め、自律神経を正常な状態に導く効果が期待できます。
意外にも筋膜のケアは、心と体の健康を支える重要な要素なのです。
【関連記事】
>冷えが引き起こす痛みとは?慢性的な痛みとQOL低下を防ぐ冷え対策法